ヒット君と私 ~おもひでぶぉろろぉぉん~

 「おもひでぶぉろろぉぉん」において、とうとうヒット君が誕生していた。
 たしかファルマンと一緒にやっていた落書きの中で、生まれたのだったと思う。だから描いた日とアップした日に、もしかしたら数日の隔たりがあるかもしれない。そこはもう定かではないので、ヒット君の誕生日は1月12日ということにする。期せずして娘たちの誕生日のちょうど半ばである。日付こそ厳密ではないが、ここにアップした画像が、本当にそのときに描いたものだということはしっかり覚えている。なのでこれが正真正銘のヒット君第1号ということになる。最初はこんなに脚が長かったのか。これは「ドラえもん」とまったく同じ現象だな。
 ちなみに、自身のセリフの中で、「人じゃあないんだよ ヒット君だよ」と「君」を漢字で記しているが、その横に浮かぶキャラクター紹介の文字列では「ヒットくん」とひらがなであり、当初から表記の揺らぎがある。この揺らぎは今もなお継続している。僕なんかは生みの親なのだから、「ヒット」と愛を込めて呼び捨てにしたっていいはずなのだが、なぜか生誕から17年経った今でも頑なに「君」か「くん」を付けて呼んでいる。
 それで思い出したが、僕の父は僕のことを君付けで呼んでいた。そのことに関して、父はそののち不倫をし、われわれ一家を捨ててゆくわけだが、要するにそうなる前から家族との付き合いが引け腰だったということだな、と思っていたのだが、自分のヒット君に対する接し方から鑑みるに、まあそうとも限らないのかもな、などと思った。なんとなく「君」を外すタイミングを逸してしまうということはある。ただし父は、離婚から十数年後に姉や僕の結婚式で再会したとき、なんか普通に僕のことを呼び捨てで呼んできたので、家族だった当時の「君付け」に違和感があり、そしてこの状況でのいきなり呼び捨てにも違和感があるので、つまりなんか、そういう情操が欠けている人なのだな、ということを思った。
 話が横道に逸れた。僕とヒット君の話である。この初登場からヒット君はちょいちょい「俺ばかり」に登場するが、その存在を決定的なものにしたのが、この年の3月20日から同じく「俺ばかり」で始まった連作4コマである。ヒット君と人志少年という伝説のタッグはここから始まったのだ。ちなみにシリーズ何作か描いたこの漫画には、「セックス」や「フェラ」などといったワードが頻出するため、今後ヒット君が世界で、ミッキーマウスとスヌーピーとアンパンマンとドラえもんとムーミンを足して5で割ったようなキャラクターへと成長してゆくにあたり、まるで「実は昔AVに出演していた」的な汚点扱いをされそうで嫌だな、と思っている。若気の至りと言うほかない。
 今ではすっかり穏当で健全なキャラクターとなり、性的な要素はもちろん、最近では「他人のしあわせをねたむ」という、こげぱん的な要素さえ薄まり、じゃあヒット君というキャラクターの物語性はどこにあるのか、という感じになっている。ちなみにだが、ヒット君は種族としては植物に属し、その原産地はフランスのパリという設定が実はある。なので今夏のパリ五輪に向けて、なんかしらのムーブを試みてもいいかもしれないと思う。あるいはフランス大使館とかから連絡が来ないものだろうか。
 おもひでぶぉろろぉぉん的にはまだ先の話だが、このあとヒット君はフェルト製の人形として量産され、レンタルボックスやハンドメイド販売サイトにて何体か販売される。手元から旅立った彼らがどうなったのかは知らないが、それよりも圧倒的に多い、手元から旅立たなかったヒット君人形は、いまも現役で子どもたちの遊び道具になっている。ふたりの娘は、赤ん坊の頃からヒット君人形で遊び続けているが、13歳と10歳になった今でも、本当にバリバリ遊んでいるので、作った本人が驚くほどである。その様子を見るにつけ、(ヒット君、優秀なフィクサーがいれば本当に世界を席巻できるんじゃなかろうか)などと夢想したりする。ただし子どもたちは何十体もあるヒット君人形に、使用されているフェルトの色などの特徴から、1体ごとに固有の名前を付けるということをしており、実はその接し方は、生みの親としては認めていない。ヒット君は、色や大きさが違っても、ひとりだから。たくさんいるように見えても、ソメイヨシノはすべて最初の1本から接ぎ木で増やされたクローンというのと同じで、同一個体なのである。だから1体ごとの名前というのはあるべきではなく、そしてどんなに人形としての数が多くても「ヒット君たち」と複数形にするのも間違いで、とにかくヒット君というのは、「ヒット君」という一個の存在である、というのが作者としてのスタンスで、なのでこの部分に関して、もしも娘たちがヒット君というキャラクターを商用展開していくことになった場合(ふたりともそういう才はなさそうだが)、大塚家具ばりに、父と娘による法廷闘争になりそうだな、と思っている。