コピーライター的葛藤
ちんこの部分を、公序良俗に反さない程度にのびのびさせるタイプのボクサー型スイムウエアを作り始めて2年ほどが経ち、作るたびに細かい修正を重ねた果以あって、わりと自画自賛するほどいい仕上がりになっている。見た目がかっこいいし、なにより穿いていて快感もある。ただでさえ気持ちのいいプールライフが、この水着によってさらに上質のものになっていると思う。
ちなみにファルマンからすると、「公序良俗に反さない程度」の部分に疑問符がつくらしく、「私プールでこんな人見たことないし、こんな人がいたら絶対に引くんだけど」などと言ってくる。照れる。たしかに僕は疑いようのない巨根ではあるのだけど、それにしたって妻のその言葉は、僕のちんこのことを意識し過ぎな、畏敬とでも呼ぶべき感情を持った人間の発言だろうと思う。
そんなふうに僕のオリジナル水着のフォルムに複雑な思いを抱いているファルマンだが、その仕立てに関しては手放しで褒めてくれる。その中でいちばん嬉しい言い回しは、やっぱりこれだろう。
「えっ、これって買ったものじゃないの?」
これは嬉しい。水着って、本当に安っぽいものを除けば、まあ2500円を下回ることはないような値段で売買されるものなので、このセリフは、僕の作った水着にはその価値がある、ということを意味する。
そんな経緯により、いっそ本当に販売しようかな、なんてことをうっすら思ったりするのだが、これが実際に考え出すとなかなか難しい。
なにが難しいかと言うと、僕の水着の特長はなんと言っても、一般的に販売されている水着には通常なかなかない、泳ぐためにはないほうが絶対にいい、股間部のためのゆとりなのだけど、もしもこれを売り文句として大々的にアピールすると、購入者はそれを目的としていることになってしまい、それは結果的に公共の場での穿きづらさに繋がってしまうと思う。なにせプールでそれを穿くということは、その場にいる、すなわちスイミングの習慣を持つ人たちにその姿を見られるということであり、そしてスイミングの習慣を持つ人たちというのは、一般の人に較べて当然スイムウエアへの関心が高い。であるから、購入者と同じくその販売ページを目にしている確率も高く、そうなると「あ、あれは股間部を強調する目的の水着のやつだぞ」と露見してしまうリスクが強まるという寸法だ。
そのため、僕の作る水着最大のアピールポイントは、安全策として、販売時にアピールすることができない、ということになる。しかしアピールすることができない以上の事情により、そのことを商品説明で触れずに販売した場合、股間部のゆとりのことなどまるで求めていなかった人間が購入してしまう、という悲劇が起る可能性も出てくる。その人は、届いたものを穿いて、それまで自分が穿いてきたものとはまるで違う、男性器がわりと突き出るさまを目の当たりにし、「こんな淫靡なもの穿けるか!」と怒り出すかもしれない。
そんなことを考え、水着の販売に二の足を踏んでいる。どう表現すれば、「それ目的」じゃないけど、「それ目的」の要望を満たしますよ、という絶妙のラインを狙えるだろう。そんなコピーライター的な葛藤を抱えている。