インスタ事前会議 完

 組織委員会会長の独断で「宝玉袋」に決まりかけた前回の会議であったが、よく見れば会長に向かって万歳三唱をしていたのは男性ばかりで、女性はひとりもしていなかった。そしてそのあと女性陣から反対意見が次々に挙がり、議論はさらに紛糾することとなった。これについて会長は会議後、「女性の多い会議は長く時間がかかる」という趣旨の発言をし、それが内外で問題視されたことにより、会長職の辞任を余儀なくされた。
 というわけで振り出しに戻ってしまった、「陰茎部分の肉棒に対し、陰嚢部分、その中身と外側を併せたものを、インスタグラムでなんと呼ぶか」問題。
 しかし会長不在のまま再度開かれた会議において、思いもよらない意見が現ぜられた。案出したのは39歳になったばかりだというブロガー、purope★papiro氏である。
「「金玉肉袋」はどうでしょう」
 前回、3字というのはいかがなものかと論議されたこのテーマに、まさかの4字案。議場が大きくざわついたのも、むべなるかな。しかしそのファーストインパクトが嚥下されると、やがてあちこちからじわじわと、「ほう……」「なるほど……」「たしかに……」などの声が漏れ始めた。
 金玉肉袋。
 肉袋、金玉、肉玉、玉袋、金玉袋など、ここらへんの字を使えばいいのではないかという予感はありつつも、どれも決定打に欠けた言葉たち。この不足感を解消するためにはどうすればいいのか。全部ひっくるめればよかったのだ。
 金玉肉袋。
「一見過剰のように思えるが、しかし4字のうちどれも省くことはできない。安定しているということだ」
「肉棒が1本で2字なのだから、2個あるそれが4字を使用することは言われてみればなんら不自然ではない」
「肉が効いている。肉がかすがいとなり、金玉肉、肉袋、どちらにも寄り添っている。肉棒との調和もある」
 評議員たちは、今度は忖度なく、素直な心で次々に賛辞を寄せた。
 ここで決が採られた。金玉肉袋に賛同する者は挙手という呼びかけに、手を挙げぬものは皆無であった。かくして金玉肉袋という結論が導き出され、会議は万雷の拍手とともに閉会した。
 ちなみに金玉肉袋のイントネーションは、「思ひ出ぽろぽろ」の、「三色すみれ風呂」のそれでお願いしたい。
 肉棒と金玉肉袋を引っ提げて、いよいよインスタグラムに挿入開始だぜ!