続インスタ事前会議

 なにが嫌って、「おっさん古くて寒い」と思われるのが本当に嫌で、それを回避したい一心なのだ。具体的に言うと、ふっくんのブログみたいな、ああいう類の印象を、インスタ女子に抱かれたら、もう生きていけない。そのためにはやはり、はしゃぎ過ぎたらダメだと思う。「本日も願晴りやしょう~~~」とか言ったら本当にダメなのだ。ふっくんのブログは、おっさんとしてのダメの見本みたいなところがあるので、定期的に眺め、他山の石とするのがいいと思う。よくラジオの投稿とかで、一人称「おいら」でクソどうでもいいエピソードを語るおっさんがいるけれど(これは特定の誰かというわけではなく、どの局のどの番組にもいる)、あれも同じだ。おっさんのその種の稚気というのは、本当に見苦しいと思う。
 そういう意味で、前回の会議で発出された陰茎の呼び方、「肉棒」は、じわじわと染み入るように、適当なのではないかと思えてきた。肉棒には、はしゃいでいる部分がない。その部分を示すためには使わざるを得なくて使っている、という無機質な風味があり、しかしその一方でガチガチの官能小説用語なので、淫靡さも漂う。だとすればそれは、色気だ。考えれば考えるほど、おっさんがインスタ女子に向けて陰茎のことを語ろうとしたとき、用いるべき言葉は肉棒以外にないような気がしてきた。
 この調子で、さて今回の議題は陰嚢である。こちらでも肉棒のような言葉にたどり着きたいものである。
 僕はわりとこれまでのブログで、陰嚢という言葉を使ってきた。わりと好きなのだ。字面もいいし、語感もいい。しかし使いながらいつも頭のどこかで、「陰嚢と僕が言っているとき、ちんこの陰茎以外の部分全体のことを指しているということが、読んでいる人間にはきちんと伝わっているだろうか。睾丸を包んでいるものが陰嚢なので、ただ陰嚢と言うだけでは、睾丸を除いた袋の部分のことだけを指していると思われてやしないだろうか」という疑念があった。細かいが、大事な部分だ。インスタ女子もまた、陰嚢だけでは睾丸が除外されていると捉えるかもしれない。だから「陰嚢」は使えない。そもそも陰茎部分を陰茎と呼ばないのに、陰嚢は陰嚢だなんてバランスが悪い。なのでやはり別の言葉を用いるべきだ。
 まずオーソドックスに思い浮かぶのは、「玉袋」だ。しかしこれもまた、袋の部分しか指していない。〇袋は、どうしたってそうなる。肉棒に対応させる意味で「肉袋」も浮かんだのだが、これも同じ問題を抱えている。睾丸は内包されていて、目視できるのは袋だけなのだから、仕方がないと言えば仕方がないが、なにかもっとこう、本体である睾丸への思いやりのある表現はないものか。ただしその一方で、「金玉」だと、それは睾丸のことだけしか言っていなくて、それもよくない。あちらが勃起すればこちらがED、こちらが勃起すればあちらがEDだ。
 前回の話の中で「男根」について触れ、根とはむしろ陰嚢のほうが役割としてふさわしいはずだ、ということを述べた。そこから発想し、さらには睾丸が中にあるという部分もしっかりとカバーして、「肉球根」はどうかと考えた。意味的にも見た目的にも、これはだいぶいい。肉の球根。なるほどうまいこと言うもんだな、と我ながら思う。しかしながら、肉球根が陰嚢を表していると、インスタ女子がすんなり理解できるだろうか。インスタ女子って、ダンスとか、歌とか、メイクとか、縄文時代みたいな原始的なものしか理解できないんでしょう。ちょっと肉球根はハードルが高いかもしれない。3字というのもちょっと引っ掛かる。できれば2字がいい。じゃあ「根」を省いてしまって、「肉球」はどうか。肉球をぷにぷにするのが好き、とか言う女子っているじゃないですか。肉球に陰嚢の意味が加わったら、あいつらの発言を、後出しで淫猥なものに上書きすることができるというメリットもある。実際、たぶん犬や猫の肉球をぷにぷにするのが好きな女子は、陰嚢を弄ぶのも好きに決まっている。天津木村のエロ詩吟に、そんなネタがあったような記憶がうっすらある。しかしやはり肉球は犬や猫のそれであって、陰嚢を指していると理解させるのは難しい。
 でもやっぱり「肉」は魅力的だな。「袋」を使うと外袋だけの感じが出てしまうが、肉ならば物体としての全体を表すことができるような気がする。肉の球が犬や猫に取られてしまっているのならば、球を玉にしてはどうか。肉玉。ダメだ。うどんかお好み焼きだ。こうなったら漢語林でいい漢字を探し出そうかと思ったが、漢語林でようよう見つけ出すようなものではダメなのだ。肉棒のように、平易で簡潔な表現はないものだろうか。
 ……というこれまでの喧々諤々の議論(一人56役)の流れからは逸脱してしまうのだが、鳥取県倉吉市の小学校の名称決定みたいなことをしてしまうのだが、最後に袋がつくし、3字なのだが、「宝玉袋」はどうであろうか。なんだよ、はじめから会長の胸の内にあったそれに決まってたんじゃないか、と56人の会議参加者は一様に白けた顔である。しかし聞いてほしい。〇袋だと、袋部分だけを示しているようになってしまうという問題を解決するための、〇の強調のための3字なのだ。最後に袋があると、どうしたって「袋のことを言っているんだな」という印象になってしまうが、その前に袋の中身を強く主張しておくことで、両社の力関係がイコールになる。そういう効果を意図している。その結果としての、「宝玉袋」である。宝玉。子は宝。子とはなにか。子はどこから発露するか。宝の玉からである。我々がぶら下げているのは、黒ずんだ皺皺の醜いものではない。宝玉である。誇りを持つべきだ。どうかね諸君。……か、会長! 会長、さすがです! インスタグラム組織委員会会長、元総理、さすがです! おいみんな、会長の胸像を作ろうぜ! そうだな、そうしようぜ! ばんざーい! ばんざーい! 会長ばんざーい!
 というわけで、会長の鶴の一声により、陰嚢の呼び方は「宝玉袋」になりました。肉棒と宝玉袋、これに八咫鏡を加えたものが、古来より三種の神器と呼ばれております。